コラム(読み物)

第15回中医オープン講座を終えて (上釜 直人)

平成29年3月19日、今年も目黒プリンセスガーデンホテルにおいて第15回中医オープン講座が開催されました。
2011年の東日本大震災による中止を除いて、16年目の開催です。

私がオープン講座の実行準備に携わってから、かれこれ4・5回目の開催でしょうか。
毎年バタバタとしてうまく準備が整ったことはなかったのですが、今年も講師の先生方や三旗塾の塾生さん、そして金子先生のご尽力でなんとか無事に終わらせることが出来たと思います。

ここでは、各講座の感想、準備段階での裏話、反省点や問題点、今後の展望などを書いてみます
講座の内容については各先生の印象を抜粋させて頂きます。
司会進行をしておりますと、講座の細部まで聴く余裕がなく、そのエッセンスを伝えることが出来ないのでご容赦ください。

まず、ここ数年で困っていることからお話しします。
それは電子メール(言い方がもはや古いですね・・)でオープン講座のご案内の通知をするのですが、昨今の迷惑メールに対するセキュリティーの強化で今まで送ることの出来ていたメールが届かなくなってきたことです。
あるいは、日々届く大量のメールに埋もれて三旗塾のメールに気付かなかったという方もいました。
結局電話で直接連絡を取ったりしました。
何度も電話してしまった先生もいらっしゃり、その節は失礼いたしましたので、ここでお詫びさせていただきます。
今後は皆様への事前の告知のやり方を改善していきたいと思いますが、何か良いお知恵があれば是非、ご教授下さい。


午前の部の講義は西岡由記先生の「傷寒論から解く難経・脈診難経」でした。
西岡先生の下のお名前は由「紀」ではなく由「記」です。
専門学校向けのポスターの告知で由紀という誤った表記でお伝えしてしまいました。
西岡先生はさばさばと「良くあることなので直しておいてください」とおっしゃって下さいましたが青ざめました。
ここで訂正とお詫びを改めて致します。(謝罪が多くなってしまい恐縮です。)

昨年10月くらいから西岡先生とメールを何回かやり取りをして今回の講座にたどり着きました。
当初、先生は講座を受ける人の中医学のレベルを気にしておりました。
具体的には『霊枢』『難経』の習熟レベル、『傷寒論』の理解度などです。
しかし、オープン講座は学生から初学者も多くいて、多様な人が集まることを理解して頂き、何とか今回のレベルに落ち着きました。
それでも、西岡先生のライフワークといわれる著書、『図説難経』の内容の厚み・深さと鍼灸学校での教鞭の経験から、講座に盛り込みたい要素は削れない部分が多かったと思われます。
講座直前までパワーポイント資料の修正がありましたし、レジュメの量もオープン講座史上でも最多の部類に入ると思います。
レジュメは講座一週間前に夜中まで開いている横浜のキン○―ズで800枚くらいカラーコピーをしました。(20000円以上かかったのでまたもや青ざめました。)

しかし、あのレジュメは白黒ではその良さが伝わらないと思いましたので、敢えてカラーコピーにしました。

ここでネット会員の辻本先生のエピソードを紹介したいと思います。
辻本先生は西岡先生の講座が大変興味深かったので、午前の講座終了後、常設の亜東書店にて『図説難経』を買い求め、帰りの電車の中でそれを読み始め、その本に引き込まれ、何駅か乗り過ごしてしまった程だそうです。
以前から辻本先生は『素問』『霊枢』『難経』は読んでおかねばと思っていて、古典ベースに治療を行うものにとって臨床局面で求められる判断は、その根拠を古典の治療哲学に置かねばならないのではないかと考えておられ、『難経』の治療哲学に興味を持っていましたが、多くの方がそうであるように、古典の書物を読むのは荷が重いと思われていたそうです。
良い解説本があったらいいのにと思いながら、なかなか良い本に巡り合わなかったそうです。
ところが今回、西岡由記先生の『図説難経』に出会われ、それを読み込むのが楽しみだとおっしゃっており、エポックメイキングな本になれば良かったと願います。
今回のオープン講座で西岡先生に出会い、そのライフワークの集大成という『図説難経』にご縁があったことが辻本先生にとって喜ばしいことであれば幸いです。
詳しくはフェイスブックの千日会報メンバーズに辻本先生の投稿がございます。
是非検索してご覧ください。


午後の講座は伊藤弘隆先生による、「身体が及ぼす脳への影響とトラウマ治療」~精神が起こす様々な症状と言葉の治療~と題して行われました。

こちらは三旗塾大和クラス基礎応用コース担当講師で三旗塾理事の金本先生が明解かつ的確に要約されているのでそのお言葉をお借りします。

 「伊藤弘隆先生はご自身の臨床の中で、患者の心的外傷(トラウマ)と現在抱えている主訴との関連性に着目し、関連性が認められるケースは主訴の治療のみならずトラウマに対するアプローチを実践され、その結果、線維性筋痛症を中心に種々の難治性疾患に対して良好な治療成績を挙げられています。(中略)トラウマを引き出すという困難な作業に加え、それが現在の患者の主訴に関係していることを患者自身に理解してもらうことは至難の業であります。
その過程で独自の予診票を作成して活用するなどできる限り患者の負担を少なくするための工夫に、患者の心身の苦痛を少しでも緩和したいという伊藤弘隆先生の情熱を肌で感じ、臨床家として追及すべき姿を改めて考えさせられました。」

金本先生の講座の印象の詳細は、三旗塾ホームページで閲覧できます。
是非、アクセスして下さい。

昨年の暮れに私が初めて伊藤先生とお会いした時は、物静かで、とても実直な先生と言う印象を受けました。
ところが、オープン講座当日、私は司会として斜から講座を拝聴していたのですが、意外にも親しみやすい口調で講座を流暢に進めて頂き、ともすれば重い話題になりかねないテーマを、笑いの絶えない、とても楽しい講演を行って頂きましたので驚きました。
その中で飲酒もトラウマに起因するというキーワードが耳に残りました。
私、個人的に多少(?)お酒を飲む方なので、伊藤弘隆先生の治療セッションを受けてトラウマを取って頂き、飲酒量を減らしたいと半ば本気で思っております。


また、金子先生はオープン講座懇親会で以下の様な感想を持たれました。
とても印象深かったのでお伝えします。

「今年は西岡先生、伊藤先生お二人の講師から基礎の上に自分の私見を語って頂いた。
積聚の先生が積聚を語らず、長野式の先生が長野式を語らない凄みをわかって欲しかったが、奇しくも受講した北辰会理事竹下氏がそれを喝破してくれ、どの流派であろうが、突き詰めると、流派的理論や思考の上に自分のオリジナリティーが載る。色が出てしまう。嬉しいやら?悔しいやら?複雑な心情になる。」とおっしゃっておりました。

確かに今回の講演では西岡先生は積聚の要素を入れず、伊藤先生は長野式のお話を一切されませんでした。
これは三旗塾が中医学のオープン参加の講座を開催とうたいながら、他流派の先生を呼び込む金子先生の人脈の太さ、懐の深さの表れであると思います。
そして、それは流派を超えて初学者、中級者、ベテランの臨床家をつなぐ、三旗塾中医オープン講座の最大の魅力の一つではないでしょうか。


臨床家として流派というものに所属し、その理念や技術手法をその先生や兄弟子に師事し勉強する方も多いでしょう。
一つの流派にこだわり、その技術と知識を極めていくことはとても大変ですし、その技術・知識を高めて、より臨床結果の成功例を積み上げていくのは、臨床家としての本分でしょう。

ただ、自らの流派を唯一絶対として、他の流儀に対し排他的になってはもったいないと感じていますし、鍼灸業界にとっても足の引っ張り合いとなり全くメリットがないと思います。
また、逆に、各流派のいい所取りをしようという考えで勉強しながら臨床にあたっていても、自分の芯となる治療哲学が無ければ、すぐ限界を迎えると思います。

ここで大事になるのが辻本先生のおっしゃっている治療哲学であると私は思います。
来年は三旗塾が主催する「中医オープン講座」として17年目の開催となります。
今後も鍼灸専門学校生をはじめ、初学者や臨床家でも、さらに多くの鍼灸の知識を深めたいと願う方々に、広く視野を広げてもらい、多くの同業者や実績を積まれている先生方との交流を持てる場にして行ければと思っております。

中医オープン講座を入り口にして三旗塾を知って頂き、三旗塾に関わって頂き、多くの中級以上の施術者を輩出できれば幸いです。

最後に、毎年様々なリクエストに対応してくれるプリンセスガーデンホテルの担当者・スタッフの皆さま、重い書籍をいつも大量に搬入して下さり、良書を販売して下さる阿東書店、小川さんのご尽力に感謝いたします。
また、バルナバクリニック及び熊本地震に募金をして下さった方々に重ねて感謝いたします。



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